「潜伏期」という意味のタイトルが付けられた武道館2デイズ公演、その1日目。それは、彼らにとってデビューから28年目、ワンマン・ライブとしては2007年の全国ツアー以来、5年ぶりのステージである。
2日間のステージがそれぞれ前編と後編という位置づけになっていたようだが、かと言って前編にあたるこの日のステージが何かの半分だけというもの足りなさを感じたかと言えば、まったくそんなことはない。色鮮やかな照明と隙のない演奏、それとは好対照を成す無邪気とも思える一面、例えば機材トラブルを思わせる演出でオーディエンスをドキドキさせたり演奏を終えた3人が思わせぶりな行動を見せてステージを去っていったりといったことも含め、スタイリッッシュとも言える、彼らならではのドラマ性が見事に表現されたステージだった。
とりわけ印象的だったのは、会場を包んでいた特別な時制だ。そもそも今回の公演は2014年からタイムマシンで3人がやって来たという設定になっていたようだが、演奏が始まると、そうした擬制を超えて、5年のインターバルはおろか、この28年間の時の流れさえも無化され、オーディエンスはTM NETWORKという時間を生きることになった。考えてみれば、彼らの音楽はつねに未来から現在を照らしていたのだし、あるいは宇宙の中の地球という惑星に自分たちが立っている場所を見出していたのだから、5年あるいは28年などという時間の流れも彼らの世界に少しばかり近づいたという程度のことなのだ。TM NETWORKという時間を生きるとは、そういう時間感覚を共有するということだし、実際のところ、この日の3人の姿は5年前はおろか28年前と比べてもほとんど変わっていない。そして、過去は現在と直結し、そのまま未来へと開かれる。
鮮烈な赤の照明と特効を駆使して戦争を連想させるような長いイントロに続いて演奏された「Get Wild」の、♪誰かのために生きられるなら何もこわくない/誰かのために愛せるのならきっと強くなれる♪というメッセージは、この曲が発表されたバブル真っ只中の1987年よりも、東日本大震災を経験した後の2012年のほうがいっそうリアルに響いたはずだし、だからこそイントロで示されたカタストロフの暗示を真剣に憂うべきなんだろうと思わせられる。それでも、すべての演奏が終わった後に温かな思いが身体を包むのは、単にデジタル・ビートに煽られて上気したからではなく、最新曲「I am」で繰り返し歌われる♪I’m human♪というフレーズが象徴する、喜怒哀楽を持った生身であることに対する強い共感がこの日のステージを貫いていたからだろう。そして、それはもちろんこの時代を生きる彼らの実感であるはずだ。「潜伏期」という意味のタイトルが付けられたこの日のステージは、彼らが“潜伏”はしていても、ちゃんとこの時代を呼吸していることを告げるライブだった。
ちなみに、主人公3人は♪I Am 22 nd Century Boy♪と歌う曲を最後に、ステージを後にした。TM NETWORKという時間とは、22世紀的時間であるのかもしれない。そして、この日のステージは、2014年という年からやって来た3人からのメッセージを受け取るという設定だったわけで、それは他でもない「30周年」への印象的な“招待状”であった。
1.OPENING
2.Fool On The Planet
3.ACTION
4.永遠のパスポート
5.Come on Let's Everybody
6.Love Train
7.Kiss You
8.GIRL
9.Nervous
10.I am
11.Just One Victory
12.BEYOND THE TIME
13.Get Wild
14.Wild Heaven
15.Be Together
16.Self Control
17.Electric Prophet