2年ぶりにビッグバンドとの共演が実現したスペシャル・ライブ。全国の70を超える映画館でも同時中継された。
スクリーンに浮かび上がった「見上げてごらん夜の星を」を歌う少年のシルエットがそのままASKAのシルエットとなり、幕が上がって本物のASKAが登場するオープニングがまず、この日のステージは「昭和が見ていたクリスマス!?」というひとつのおとぎ話なのだろうと思わせた。実際、ゴージャスなビッグ・バンドの演奏にのって当代随一のひとりと思われる名シンガーが次々と洋邦のスタンダード・ナンバーを披露していく様は、まるで銀幕の中の出来事のようにオーディエンスを夢見心地にさせてくれる。しかし、そのステージは決して夢なのではなく、シンガーの歌に込められた月並みでない熱が着実に会場を暖めていき、その感覚がリアルな高揚をオーディエンスの一人ひとりにもたらすことになった。おまけに、歌の合間にはさまれるMCはなんともリラックスしたもので、例えば気心の知れた友人に話しかけるような調子で馬油の素敵さをアピールしたりするものだから、気持ちがすっかり寛いでしまい、だからいっそう気持ちの奥深いところまで歌がしみ込むことになった。
ところで、この日のライブの基調になっているのは、過ぎ去った日々へのノスタルジックな思いだ。「紅白歌合戦」が大好きで、なんとか最後まで見通したいといつも思っていながら、毎年途中で眠り込んでしまっていた“かつての少年”が、洋の東西も時代の新旧も、さらにはオリジナル歌手の性別も超えて、様々な名曲たちをわがものにして歌う“ひとり紅白歌合戦”状態は、それ自体がひとつのファンタジーであるとも言えるけれど、時の流れとともに消えてしまったものを単に思い出そうとする試みにとどまらない。ASKAの歌の向こうにオーディエンスが見るのは、懐かしい曲を生み出した昔の風景だけではなく、そのなかで懸命に生きていた人たちの姿であり、それは大きな喪失を経験してしまったこの国の人たちが新しい明日に向かおうとする姿に重なるだろう。つまり、この日のステージの底流にあったノスタルジーは明日への祈りに真っすぐにつながるものだ。
ステージは、プロローグではシルエットの少年が歌った「見上げてごらん夜の星を」のフルバージョンをASKAが朗々と歌って幕を閉じる。再び幕の向こうでシルエットとなったASKAは少年となり、その少年のシルエットは駆け出すようにして消えていった。おそらくは、その少年は“未来の少年”であって、こうしてまた歌は”かつての少年”から”未来の少年”へと歌い継がれていくことになった。そして、その少年が去った後のスクリーンに、映画のエンドロールのように、この日の出演者やスタッフの名前が流れて、「昭和が見ていたクリスマス!?」というファンタジックな時間が終わった。
言葉本来の意味でのスタンダード・ナンバーと、その魅力を十全に表現してみせるボーカルの素晴らしさをたっぷり堪能した2時間だった。
1.Love Is A Many Splendored Thing
2.Smile
3.My Life
4.Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!
5.また逢う日まで
6.天使の誘惑
7.廃墟の鳩
8.あの鐘を鳴らすのはあなた
9.木綿のハンカチーフ
10.ここに幸あり
11.MOON LIGHT BLUES
12.Stardust
13.What A Wonderful World
14.歌の中には不自由がない
15.朝をありがとう
16.思い出すなら
17.僕はこの瞳で嘘をつく
18.夢のかなた
19.BROTHER
20.月が近づけば少しはましだろう
21.野いちごがゆれるように
22.世界にMerry X'mas
23.見上げてごらん夜の星を