デビュー25周年ツアー”MOONLIGHT ORCHESTRA”の初日である。この状況下ゆえ、アニバーサリー・ツアーらしい華やいだ雰囲気はないが、オーディエンスの今の気分を察してノスタルジックなトーンを基調にしたセット・リストがしかるべき年輪を刻んできた男の感傷とロマンを感じさせて、印象的なステージになった。
実際のところ、かつての米米CLUBのライブのようなバカ騒ぎ的盛り上がりは期待していないし、そういう気分にはならないにしても、と言ってあまりしみじみとしただけで終わるのではもの足りない、というのがこの日のオーディエンスの気分ではなかったか。そのあたりにを十分に心得た石井は、MCではいつもの調子で客席をなごませつつも、歌はほのぼのと聴かせ、さらには中盤に挟み込まれたお芝居ではホロリとさせる。しかも、そのストーリーを冷静に振り返れば、この現実を生み出した現代人の意識に対する批評性ものぞかせたりしているし、あるいはステージを飾るオブジェのLED照明で浮かび上がる青色が冷たい感じになってしまうからとわざわざ特注で作らせたこだわりなども随所に折り込まれており、やはり通り一遍のヒューマンな演出だけでは終わらないのが石井流である。
おそらくは、このツアー・タイトルが考案された時点では違うイメージを描いていたはずだが、しかしこの日のステージを見れば、月の光の柔らかさやちょっと切ない感じ、あるいはちょっともの思いに耽ってしまような感じといった月のイメージがいかにもしっくりくる味わい深いステージだった。