ベット・ミドラーは、バーブラ・ストライサンド同様、歌の世界と映画の世界を両立させているアーティストで映画がらみのヒットが多いが、この曲も1989年の映画「フォーエバー・フレンズ(ビーチズ)」のために書かれたもの。ビルボードのシングル・チャートでは見事にNo.1に輝いており、シングルとしてプラチナ・ディスクを獲得。彼女の一番のヒット曲となっている。
映画のストーリーは、ベット演じるブロンクス生まれの貧しい少女とバーバラ・アシュレーが演じるカリフォルニアの令嬢の友情ドラマ。住む世界がまったく違う二人の人生をタテ軸に物語が展開するなか、ベットが歌う歌がこの映画の重要なスパイスになっている。どちらかというとコミカルな演技が得意なベット・ミドラーにとっては、この映画は80年の「ローズ」以来のシリアス・ドラマ。この映画に関して、ベットは封切り前に次のようにコメントしている。
「私自身、ベストな演技だと思う。今、私が本当に大切にしているのは子どもの成長と付き合うこと。子どもが世界に立ち向かっていけるようになったか、強くて力のある人間として生きていけるだけのものを身につけたか、それを見届けること。それがいちばん大事なことで、映画は映画よ。仕事として楽しくやっているから、以前のように気負ってないわ」
私生活では愛娘ソフィーの母親としての時間を大切にするというベットのコメントは、そっけない感じもするが、それだけこの映画を境に吹っ切れたということだろう。
映画「フォーエバー・フレンズ」のクライマックスは、バーバラ・アシュレーが愛娘をベッド・ミドラーに託してこの世を去っていくというシーン。多くの女性が涙を流さずにはいられないシーンだが、そのせいかこの曲はある種の追悼歌としても親しまれている。♪あなたは私の翼の下を吹く風/空高く飛べる/天まで上がれる/ありがとう/あなたがいてくれてありがとう♪という歌詞によるところも大きいのだろうけれど、親友の死に際してことさら暗くならないで、二人で過ごした日々に感謝するという姿勢が広く支持を得たポイントかもしれない。
ポップス史を振り返ると、このほかにも様々な追悼歌が存在する。ダイアナ元皇太子妃の追悼ソングとして世界中で売れたエルトン・ジョンの「キャンドル・イン・ザ・ウィンド97」をはじめ、パフ・ダディの「アイル・ビー・ミッシング・ユー」、ダイアナ・ロスの「ミッシング・ユー」、クイーンの「ヘブン・フォー・エブリワン」などなど。そのどれもがジーンとする感動を与えてくれるのは姓名の尊さ、はまさなさを感じるからだろうが、ベット・ミドラーのように映画のなかで感動を与えてしまうというのは、あらためて“さすが”と思わせてくれる。
ところで、「愛は翼にのって」がヒットしている最中、ベット・ミドラーはすでに次の映画「ステラ」のために、フロリダ州の高級別荘地、ボカロートンを訪れていた。それを知った地元FM局のDJが放送で呼びかけた。
「ベット・ミドラーさん、あなたのファンです。あなたが僕と同じボカロートンの空の下にいると思ったら、居ても立ってもいられません。この放送を聞いたらぜひスタジオに電話をください。電話してくださるまで僕は<愛は翼にのって>をオンエアして待ってます」
そして、実際にこの曲を1時間30分にわたってオンエアし続けた。それを知ったベットは、FM局に電話をかけてこう言った。
「13歳の頃ハワイにいて、そこのDJがエルヴィス・プレスリーの<冷たくしないで>を気に入って100時間オエンアし続けたっていうのを聞いたことがあるわ。そのとき以来、こんなハナシ聞いたことがなかったけど、感動的な出来事だわ」
日本ではあまり考えられないことだけど、アメリカのFM局のなかには変わったところが多く、レッド・ツェッペリン専門の局もあるほど。この話も、アメリカのFMならではのエピソードと言えるだろう。
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