Vol.16  マイク・レノ&アン・ウィルソン「パラダイス〜フットルース愛のテーマ」 2010.11.14

 今でこそポップ・スター総結集のサウンドトラック・プロジェクトは珍しくもなんともないが、その先駆けとなったプロジェクトのひとつが「フットルース」。

1970年代後半に、「サタデー・ナイト・フィーバー」や「グリース」、あるいは「FM」「初体験リッヂモンドハイ」「アーバン・カウボーイ」など、ポップスと映画のタイアップがビッグ・ビジネスになることがわかって同種のプロジェクトがたくさん登場した。が、既発表曲の寄せ集めではもうひとつ魅力に乏しく、やはり全曲新曲を用意しようという意気込みで84年に制作されたのが、この「フットルース」だった。

ケニー・ロギンス、ボニー・タイラー、デニース・ウィリアムス、シャラマーなどが参加したプロジェクトのなかで“愛のテーマ”に割り当てられたのはラヴァーボーイのマイク・レノとハートのアン・ウィルソンという異色のデュエットであり、この曲「パラダイス」は当然シングル・カットされて全米TOP10を記録するヒットになっている。

 

そこで見逃してならないのは、この曲の作者がいまも熱心なファンの多いエリック・カルメンであるということだ。

当時、ゲフィン・レコードとソロ契約を結んだばかりのエリック・カルメンに、名物ディレクターで“再生屋”のA&R、ジョン・カロドナーを通じてこのプロジェクトの話は持ち込まれた。パラマウント映画ではこのプロジェクトに並々ならぬ意気込みで取り組んでいて、“愛のテーマ”についてはすでに3人のソングライターが駄目だしをくらっていた。カルメンは4人目の挑戦ということだったわけだが、即座にOKし、映画の脚本を担当するとともにサントラ曲すべての作詞を手がけたディーン・ピッチフォードと会った。

 

まず、愛のテーマが使用される予定のシーンをラッシュで見て、イメージをふくらませたカルメン。すでに♪Almost Paradise Knockin’on heaven’s door♪というフレーズをディーンが作っていて、ここに曲を付ける作業から始めたという。そして、ピアノでポロポロと弾いているうちにメロディーが完成したのはディーンと初めて会った2日後の深夜だった。明けて翌日、いよいよそのメロディーを発表ということになったわけだが、そのときのようすをカルメンは次のように回想している。

「いままで3人が沈没しているからね。多少は緊張していたよ。で、会議室に入るとパラマウントの偉い人たちや映画のスタッフが15人くらいいたんだ。そのなかで僕がピアノを弾いて男声パートを歌い、ディーンがデュエット相手の女声パートを歌ったんだ。歌い終わったらシーンとしているんだよ。あれっ!?て感じだった。でも、少し遅れて全員から拍手を受けたんだ。なかにはスタンディング・オベーションをしてくれた人もいた。ああ、気に入ってもらえたんだなって思ったよ。でも、一応念のため“この曲、映画に使えますか?”って聞くと、みんなが“もちろん!”と言ってくれた。うれしかったね」

 

ちなみに、エリック・カルメンが最初に見た映画のラッシュにはガイド・メロディーが付いていて、そのメロディーとはフォリナーの「ガール・ライク・ユー」だったそうだ。今思えば、「パラダイス」とはかなり違うイメージだったような気もするが…。さらに笑えるエピソードをもうひとつ。それは、この曲のデュエット候補が、最初はボニー・タイラーとエリック・カルメン自身だったということ。おそらく契約の問題その他で実現しなかったのだろうが、カルメンは「このプロジェクトのために僕に曲を書かせる“エサ”だったんじゃないかな。曲ができた後、いつの間にかマイク・レノとアン・ウィルソンのバージョンが出来上がっていたからね」と笑っていた。そして、「アレンジは僕がイメージしていたものと少し違うけど、映画のシーンには合っていたと思う」と、付け加えた。

 

この「フットルース」のプロジェクト、音楽面では大成功だったが、映画の興行成績という点では失敗だったかもしれない。それでも、サントラ時代の幕を開けたという意味で、歴史に残る作品になったと言えるだろう。