やもりとは、矢野顕子と森山良子のスペシャル・ユニット。
7月14日にアルバム『あなたと歌おう』をリリースし、そのアルバムを携えてのツアーの最終日がこの日のステージだ。
演奏は、矢野、森山に小倉博和(g)と三沢またろう(perc) の4人。
通常はクラシック・コンサートに使われることが多いこの日のホールの音響状態が、アコースティック編成のバンドの音との相性も良く、表現自体の豊かさを素朴な味わいのなかで感じられるコンサートになった。
ステージは、アメリカの国民的作曲家、フォスターの「Beautiful Dreamer」をやもりの二人がアカペラで歌って始まり、さらにアンコールでは日本を代表する大作曲家、中田喜直の曲「夏の思い出」「ちいさい秋みつけた」「雪の降る町を」のメドレーをこれまたアカペラで二人が歌った。
つまり、この日のステージの豊かさとは、こうした名曲たちを二人の類いまれなボーカリストがたっぷりゆったり歌うことで生まれてきたものだが、その背景には矢野と森山のアメリカ音楽の豊かさに対する尊敬と知識の深さがあることも見逃せないように思われた。
アルバムにも収録され、この日のステージでも披露された「GOING HOME」はドボルザークの交響曲第9番「新世界より」の第2楽章のテーマを歌曲にしたものだが、「新世界より」はチェコからアメリカにやって来たドボルザークの、アメリカに対する興奮と共感が作品化されたもので、そうした作品の一部がピックアップされていることが結果的にやもりのふたりの潜在意識を伝えているのかもしれない。
そして、憧憬の音楽化だけに終わらず、例えば♪なんでもありのわたしの今日/なんでも来いのわたしの明日♪と歌う「わたしたちの明日」のように自分たちの暮らしの実感のなかにちゃんと音楽を着地させるところに、彼女たちが長いキャリアを積み重ねてこれたことの理由の一端を垣間みることができたように感じた。